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「まるがめにほんごひろば」メールマガジン
~外国にルーツをもつ子どもたちとその保護者の学習支援等に向けて~
通算第35号(2016年10月1日発行)毎月1回月末及び随時発行予定(編集者加筆:太文字)
バックナンバーはURL:http://marugame-kodomo-nihongo.net/merumaga.html で閲覧できます。
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【1】今号のトピック
◆「共生日本語」とは。
○「正しい日本語」を教えることの問題と「共生言語としての日本語」への展望 三代 純平・鄭 京姫(要約)
・「正しい日本語」、そもそも何のために一つの日本語の規範を求めなければならないのだろうか。「正しい日本語」と「逸脱した日本語」を選定することにどのような意味があるのだろうか。
・「正しい日本語」の歴史的問題
日本語教育が戦前,近代化の中での「日本人化」というイデオロギーと結びついていたこと,それが部分的に現在も受け継がれている。このことから「正しい日本語」という概念、それを規範として教えるということが近代の植民地主義的なイデオロギーから影響を受けている。
・「正しい日本語」による差異化の問題
学習者が学ぶべき「正しい日本語」を設定することで,「正しい日本語」を話すものと話さないものが差異化され,「正しい日本語」から逸脱したものが,社会的に不利益を被る可能性があるという問題である。(中略)「正しい日本語」を話すものが,社会の構成員の正規のメンバーとしてみなされ,そうでないものを周辺へと追いやってしまう危険性を持っている。
・「正しい日本語」によるコミュニケーション阻害の問題
日本人との円滑なコミュニケーション,そして日本人にわかってもらうための日本語,日本人が一番わかりやすい日本語,日本人のような日本語という「正しい日本語」により,日本語学習者においての彼らの日本語は「自分を見せられない日本語」になっていくしかない。そして,彼らは,日本語を通して,ひとり一人の人間として言いたいことをいい,感情を表し,ひととぶつかりあいながら行うべきコミュニケーションにおいて阻害を感じ,心の中で悩み,そしてストレスを感じていることがわかる。
・「正しい日本語」から「共生言語としての日本語へ」
日本語は(日本語を第一言語としない多くの外国人にとって,日本社会に参加する上で,日本語を習得する必要があり、)エンパワーメントのために必要である一方,その日本語を学ぶときに,「正しい日本語」という規範により差異化されてしまうというジレンマがあるのである。このジレンマを乗り越える新しい形の日本語教育を構想することが現在の日本語教育の大きな課題であるということができる。(中略)「正しい日本語」を教えるという形ではない日本語教育や日本語支援のあり方を模索する必要があるといえる。(中略)日本語とは一つの規範に収斂されるものではなく,動的で,多様で,多元的であるという認識が日本語教育関係者に必要なのではないだろうか。(中略)この多様な日本語を,学習者と共に築いていくという姿勢が重要になっているといえる。(中略)日本語の文法事項などを日本語教育の学びの中心にすえるのではなく,学習者が日本語を使って実現したいことを「内容」として設定する「内容重視」の日本語教育を提案し,「内容」を実現する「母語話者と非母語話者の間で実践されるコミュニケーションを通して場所的に創造されていくもの」としての「共生言語としての日本語」を日本語教育で扱うべき日本語であると主張している。「共生言語としての日本語」という構想が語られる場はほとんど地域の日本語支援に限定されているといっていい。これは,在日外国人労働者の多くが,劣悪な職場環境にあることや,彼らの子供たちの日本語支援が十分でなく,そのために社会での自己実現に困難を覚えているなどの差し迫った理由から研究が進んでいるためであり,その意義は大きい。だが,「共生言語」の構想は,地域の日本語支援に限定されるべきものではない。
・「共生言語としての日本語」からの日本語教育の見直し
この規範化できない=教えることのできない「共生言語としての日本語」を実践においてどのように扱うか,という具体的な議論,実践の提言はまだ十分になされているとは言いがたい。「共生言語」というものが,コミュニケーションの現場において,相互作用的に常に更新され,変化していく性質のものであるから,画一的な実践を提案することはできず,各現場で状況に応じて常に試行錯誤していかなければならないものである。よって,簡単に具体的な実践を示すことができないことはいうまでもない。だが,同時に,現場に具体的な変化をもたらすためには,具体的な実践の提案,反省の積み重ね,共有が必要であることも事実である。
http://alce.jp/journal/dat/gbkkv05miyo.pdf
※共生日本語は,成人識字教育者フレイレの「問題提起型教育(problem-posing education)」に原型が求められ、地域住民として対等である日本人母語話者(NS)と非母語話者(NNS)両者が,共に暮らす上で生じる生活上の諸問題を,対話を通じて共有し,双方が自己の枠組みや規範を省察しながら,問題の解決に向けた新たな枠組みを創りだしていくことが「内容」とされ,それを日本語(あるいはNNS
の言語)を共生言語として機能させることで実現を目指す。お茶の水大学などで実践研究がなされているが、まだまだ市民権は得ていないようだ。今後とも要注目。
【2】研修会・講演会・論文情報
◆「多文化共生」は可能か 教育における挑戦 馬淵仁(編著)勁草書房(第5章 共生社会形成をめざす日本語教育の課題 要約)
○年少者日本語教育における母語の意識化
外国につながる子どもたちが学校生活に適応するためにはまず日本語教育であると、子どもの日本語力のみに目を向け問題を捉え、家庭でも日本語を使用することを求めるなど、日本語習得と日本の学校文化への適応を最優先した指導が行われた。その結果、子どもたちが母語・母文化に対して否定的な態度をとるようになる、子どもの母語が十分に育たず親子間のコミュニケーションさえままならなくなるなど、(中略)が報告され、日本語と母語との両側面から子どもの言語生活、言語能力、言語教育を考える重要性が日本語指導の担当者にも意識されるようになった。(中略)日本語だけに閉じた教育において日本語力の弱い親はほとんど関与する余地がない。学校で子供たちが何を学び、どのような状況にあるかということすら親が十分な情報を持ち得ず、必要な支援をすることも、教育の方針や内容に対し意見をすることもできない環境は、親としての力を削いでしまう。(中略)次世代の育成に主体的に関わるという「生活者」としての基本的な営みを親が十全に行う権利を守るためにも、日本語だけに閉じた教育であってはならない。(中略)日本語と英語という社会的に力の強い言語ののみに価値を認めるような社会においては、少数派言語話者の継承は危うい。母語の継承は(中略)社会全体がそれを保障しようとする意思を社会制度として整えていく必要がある。(中略)日本人の子どもたちが英語以外は周囲に大勢いる(少数派言語話者の)友だちの言語に関心を向けず学ぶことをしなければ、(中略)対等な立場どころか異なる文化を認め合う姿勢や異文化の相手との摩擦に対してもしっかり交渉・調整を行い関わりを深めていく力を持てるだろうか。(中略)一人ひとりの子どもの日々の生活およびこれからの人生のためにどのような力が必要であり、その育成には日本語教育がどう貢献し得るのかという「日本語教育の意義」を問うことが年少者日本語教育の基本となる。(中略)人を支える言語教育という理念は、地域日本語教育の理念と共通する。
○おわりに(編集者要約)
地域日本語教育では、地域格差(自治体の対応での格差)、言語格差(地域による多言語対応での格差)があり、多文化共生社会の構築の議論は、圧倒的多数派である日本語話者が支援する側にいて、少数派である外国人話者が支援される側という構図で進められている。意見の集約、決定、役割分担など、多様な立場の人々が社会の構成員として対等な立場でものが言える体制になっていない。すべての人々が自分のことばを大切に思うとともに、周囲の人々のことばに関心を持ち、学ぶ機会を広く得られるような社会基盤づくりのためにも、他言語との連携協力が必要。
【4】自由書き込み欄(このメールマガジンへの注文、ご意見をお寄せください。
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【5】編集後記━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
NHK番組「使える!伝えるにほんご」最終回を見た。日本語を学んでいる外国人出演者が、いかに日本語を愛し、日本の文化に敬意を払っているかがわかり嬉しかった。その中で、「私たちの使う日本語ももっとわかってほしい。」との発言には、教える側、教えられる側という関係ではない、新たな日本語、共生日本語についての示唆があったように感じた。
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